乙女椿/渡 ひろこ
向き合った途端、一瞬たじろいでしまった
あまりにも真っ直ぐに見つめられて
ファインダー越しに覗いた
淡いピンクの大輪
千重咲きの奥に守られている花芯は
何か語りた気に
唇をうすくほころばせている
その秘められた思いを手繰ろうと
小さい芯のあわいを剥いても
雄しべは無いという
結ばれぬ乙女の夢は
隠されたままに
薄曇りの切れ間から射す光
翳した小枝
葉脈が透けて見える
無垢な微笑み
まろく花弁を撫でる風
盛りをはにかむように微かに揺れた
(エッジの効かないこの大気にも
ガイガーカウンターでしか測れない
何かしらの線量が含まれているのだろう
いつか容赦ない平手打ちを喰らうかもしれない)
それでも今日出会った可憐な花は
巡ってきた季節と
柔らかな接吻を交わしていた
彼女は散り際まで凛と咲き誇る
どんな贖罪を纏うとも
唯々、美しく開花したことに打ち震えて
戻る 編 削 Point(24)