虚構/takano
餓えに憑かれた情動が魔的な貌にとりつかれる
為すすべのない醜悪な日が何度も暮れて、緞帳はふたたびあがる
開演直前に初潮をむかえたヒロインの狼狽、途方にくれた演出者の裏切り、照明の誤謬、我にかえった憤怒の貌を喉の奥へ押しこめて、役者は耐えてひたすら真実の眼差しと内奥の声を探りつづけた
されど時はかみあわず、聴衆は家路につきはじめる、カタルシスの絶頂にむかってかけあがらんとした一刹那、緞帳がむなしくも乾いた電気音のあとをついて降りてくる
ひとひらのスカーフが挨拶のように舞い落ちる
項垂れた役者は仮面を脱ぎ、疲れきっ
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