田村隆一詩集 現代詩文庫を読む/葉leaf
ていないけれど思想の外観だけは備えている、そういう記述のことを「擬思想」と呼びましょう。
思想を詩で書くためには、擬思想にならざるを得ないと思います。本当の思想を書いてしまったら、つまり、論理性・説得性・体系性・明確性をそなえてしまったら、それはもはや論文であり詩ではなくなってしまうからです。そして、詩というものは反省や熟考を重ねて整合的な体系を備えるようなものではありません。むしろ、詩というものは、人間の脳裏をよぎる刹那的な思想や感情や認識などを、その原初的で揺らぎを含みいささか極端である、そのままの状態で写し取るものです。言葉がない状態から言葉が発生する状態への動的な移動、言葉が様々な不確
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)