東京の海の中で/番田
友達のいない街で、駄目になってしまいそうな心の中をしていた。車窓の向こうには、一体何が見えたのだろうと思った。光のような物なのかもしれない。手にするには、それは、あまりにも立っている場所からは遠すぎた。失業していたから、自分の時間はあまりにも僕にはあった。先月は日がな、品川港で釣りをして過ごしていた。僕は、深夜から明け方まで、海中のサカナの姿を追っていた。ビルの間に、橋の上を走る車の群れを見つけた。彼らは、今も、会社と家との間を必死で往復しているのである。だけど、僕は、仕事を辞めた身分だから、彼らとは一切関係ない。社会だとか、親だとか、そういう煩わしいものと、もう、当分の間関わり合いを持つことはやめにしようと思っていた。
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