生きる証/salco
 
て生物の存在理由である生殖以外の目的で
エゴを毛布でくるみ苦痛を緩和する愛情を求め
いつまでも乳児のような幸福に包まれていたいと願う
そうした状態に自分を置かないと
心が荒んでミイラになるか
発狂して狼男にでもなるか
老いさらばえた透明人間になってしまうと

孤絶の懲罰房に怯える人々は
サファイアの瞳を差し出した王子の像と
その足元に転がるツバメの幸福については
忘れてしまったようだ
修道院の塀外を
ありふれた日常に笑いさざめく人々は
強制収容所で自ら命を差し出し餓死に赴いた
あのポーランド人神父の幸福については
知りたくもないようだ

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