官能の夢・枯葉の渦/高濱
一枚の鞣革と成るでしょう。」
オリュムポス山だった土地には巨大な工場が煙を吐き、
ダヴィデ像の大量生産に追われている。
棺の様な鋳型からセラミック製の翼を搏って
虹色の天使像が跪き、工場視察官の到着を告げるベルが鳴響く、
鳥の死骸を掃き清める作業員の手から、
真鍮製のペンダントが落ちる、誰もが奇跡を信じている振りをする。
でなければ、如何して貴方は青い十字架を背負うのか。
「綺麗事は死を告げる、庭には繁縷が咲いている。
あなたは継子です、主よ、葡萄色の血を滴らせる、
磔刑執行人よ、その御使いよ。鉄の十字架に懸けられた
鷲を解き放つ赤銅色の兵士達よ。だれが死に、だれが生残ったのか、
見なさい!」
偽りの葡萄樹に羊が稔る。それらは成長して、
修道院の記録に載る、奇妙な胚嚢を持つ球根が、
切断器に肖像を掛ける、絵画の中のドアに、
捻れた人影が立っている。額縁の外へと続く、
郵便受から十二匹の蜻蛉を、採集する虫取網と腕が伸び、
ガラス瓶の中には羊の胎が収まる。結末はない。
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