眼差しの先に/岸かの子
 
虚ろげな眼をしている誰かに見られている
後ろ指を指されている誰かに怖がられている
怒ってなんかいないのに
怒鳴ってなんかいないのに

このクソアマが

何かが飛ぶ何かが叫んでいる
何かが当たった何かが流れてきた
何もしていないのに何も言ってないのに

なんかその眼は

何かが引っ張られる何かが音を立てる
何かに包まれる何も感覚がない
何も何も誰も誰も
辺りが真っ暗になっている
どこかに部屋ではない違う場所に

たいがいに起きてこんや

光が差した笑っているのは誰だ
誰が笑っている何かに包まれたまま
ぼやける意識の中で自分を把握していたのか

毛布とロープと鉄下駄と跡形もない服の切れ端
散乱する無数の黒い髪の毛シミになっている血しぶき
何本かの歯
うすれゆく意識の中で口の中がざらついた

腫れている瞼が重い
明日が休みでよかった
      よかった
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