木/山人
 

それを見ていなければならなかった


先ほどまでキノコを植えていた私だった
かなり時間を費やしたようで
野鳥の声がひび割れている
新しい風の匂いがし
陽光もいくぶん煌いている
見ると私の腰掛けていた伐根から
新しく根が這い出し
私の足元の毛根へと合流している

じゅくりじゅくりと
大地からの血脈が足から入り込んでくる
骨盤の奥のうずきと脊椎の脈動
体内の臓器はすべて攪拌され、すべて材となり
一本の幹となっている
胴から思わず手を上げたとき
それは梢に変化して
毛髪は葉となり
鳥が群がり始め、ひとしずくの汗が樹皮を伝い
カタツムリが舐めていく

これが木と言うものだ
何かを思考することもなく
生き物をはべらせることのみに時間を費やし
めくるめく年月をやり過ごし
樹皮のまぶたを綴じたまま
こうしていま
私は木になった

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