六月の楽屋/
塔野夏子
楽屋には雨が降っている
彼は黒い傘をさして
鏡の前に坐っている
これまでに舞台では
幾千もの笑顔を見せてきた彼だが
今はそのどれとも違う笑みを浮かべている
愛する者と共にいるときに
見せる笑みともまた違う笑みだ
けれど鏡は雨に濡れていて
彼のその笑みをはっきりとは映し出さない
誰かが声をかける
舞台の方はだんだん晴れてきましたよ
それを聞いて
うまくするとホリゾントに虹が架かるかもしれない
と 彼は思う
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