飛ぶ鳥をよく知らない/いとう
 


消えていく
痛みをなぞりながら
その痕こそが
証であるかのように

鮮やかに
鳴いている
幾羽か、を、目に
焼き付けることもなく
空の夢をよく見るのだと
その人はうつむく

飛ぶ鳥をよく知らない
そのままの姿勢で
空も凝固している
小指の爪が冷えるほどに
見上げることも
見上げられることもなく

その人は知らない
在ることを知らない
消えていく
痛みをなぞりながら
飛ぶ鳥の夢は見ない
空の夢を見るのだと
小指の爪を毟り取る
まぼろしの
羽根の代わりに




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