『夜のレモン』/川村 透
 

世界が、見えました
世界は、こっち、でした。




夜のレモン。
死、は、願いを光らせる

君のいない、このまちは、すっぱい匂いのする泥の海になった。
じくじくと腐りかけた夜のレモンたちが
海面からつるん、と顔を覗かせる
堅く閉じた、こどもたちのまぶた
なぜこんなにも、ごつごつと、緑色で、
デスマスクのような、ぶ厚い皮でおおわれているのか?
渦を巻いて、とぽん、
と藍色の排水路へ消えてゆくオト。




夜のレモン。
緑色の娘よ、
夜のレモン、とぽん。

僕は堤防に腰掛けて、うたいはじめる
君に伝えたいことがある、
身体、を、もてあます。
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