春ありき/73
 
彼が最初に作った季節は夏と冬だけだったので、秋と春とが生まれたのは誤算であった。
しかし、二つの物事がある場合その境目も同時に存在する、というルールを作ったのも彼自身であったため、彼はその誤算を割と早く受け入れてしまった。そうしてまた何かを造りに行った。



秋は夏が劣化して行く過程だ。
落ち葉は重力に従って落ちるし、落ちた先が水たまりだった場合はバクテリアが繁殖する(つまり腐敗する)。
重力もまた彼の決めた万有のルールだ。林檎が落ちるのは、熟れて甘くなったからではなく重力があるからだ。

春は自生している。花は若葉を押しのけて勝手に咲く。
若葉の面積を奪い、窒素の面積を奪い、私の靴底の面積を奪って、境界に引かれた一本の線が面になろうとしている。

春の視点に立って見ると、夏とは春が劣化して行く過程だ。



もしかすると初めにあったのは春なのかもしれない。春より前が冬になり、後が夏になったという方がしっくりくる気がする。

それは私の勘違いだ。
いずれ近いうちに私はそのことを思い出すだろう。


(20120524:lekanto)
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