遺言劇/永乃ゆち
 



風の強い夜路地裏では猫が恋人を探してる

猫も独りじゃ寂しいんだろう

動物も植物も、独りじゃ生きていけない

あたしは窓からその様子を窺って隣で寝息をたてる男にちらりと目をやった

名前も電話番号も知らないいわゆる行きずりの男だ

「劇薬」と書かれた農薬の瓶の蓋をゆるめる

飲むのは私か?この男か?

自分を殺したい衝動に駆られるが

甘えの部分が残っているのか、未練があるのか

男を道ずれにしようとも思った

人は皆泣きながら産まれてくるという

例外もあるが

ならば最期も泣きながら迎えるのが道理じゃないだろうか

なのに一筋の
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