萩尾望都私論その5 私の赤い星1「母からの逃亡」/佐々宝砂
 
この本買って」ともねだらない。お金ないけど自分で買う。毎週少女コミックを買う金はなかったので、私は単行本が出るまで地道に待ち、本の注文の仕方も知らなかったので、手に340円握りしめ、田舎の本屋(というより本も(丶)売っているよろず屋)をいくつかハシゴして『スター・レッド』を買った。買ったうえで自分の部屋の引き出しに隠しておいた。誰にも触ってもらいたくなかったからである。そこまでひとつの物語を愛せたのは幸福な体験だったとおもう。SF好きな私の母は、そんなに少女マンガを好まなかった。今もあんまり好きではないらしい。というか、読み方がよくわからないらしい。時間がかかると言う。それで、結局のところ、私の母はまだ『スター・レッド』を読んでいない。もう読んでくれてもいいんだけど、ね。私ももう大人だし。

私に「母からの逃亡」をはじめて意識させた『スター・レッド』は、「母への憧憬」の物語としてはじまる。いま考えると、ずいぶん皮肉なことにも思われる。

これじゃ自分のことしか書いてないのでまだ続く。


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