「潮干狩り」/ベンジャミン
 
満員電車の中での雑感

この状況というものを真夏の潮干狩りと比較してみたらどうだろうかと、ふと思ったのでちょうど満員電車の真上から見下ろすような光景を浮かべてみた。
掻きわけ掻きわけ探すのは貝ではなくて束の間の自分の居場所という現実は、何かを得るというよりは体力を消耗する点で失うことのほうに随分と近い。
賑やかさという観点からするとたしかに音の洪水のような空間だが、しばらくするといろんな感覚が麻痺してしまうので思い返すと音の印象は意外と無い。
では、匂いではどうだろうかと目を閉じて嗅覚に神経をそそぐと、これはたしかに潮の香りがするというのはまったく不思議なことではないのだけれど。
それが周りの熱気に上気させられた汗のたぐいであることを考えてはきっといけないのだろうと、ふたたび目を閉じればまるで暗示にかかったように

ほら、それはとても潮の香りなのだから
列車のドアがひらくたびに吹き込んでくる風を涼やかに受け止めて

いつか行ったあの海の
無邪気に貝をひろっていた光景を思い出すのです

  
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