こごみの天ぷら/ただのみきや
こごみを捕まえて行く 静かで冷たい興奮だ
両手に持てるだけ それで十分だ
鞄もなければ袋もない散歩で足を延ばしただけ
そもそもわたしの人生がそのようなものなのだ
水から上がると生白い足にカゲロウやカワゲラの幼虫が
何匹もくっ付いていた 楽しくて笑った
蛭だったら怒っただろう
こごみをジャケットに包んでなだらかな山道を下ると
後ろから熊がついて来ているような気がした
落したものは何もないが分けてほしければ分けてもやろう
光の結晶がさらさらと薄くなった髪を梳かして行く
たった小一時間だがわたしは旅をしていたようだ
あく抜きは悪を抜くほど難しいことだった
天ぷらは苦くてうまかった
そもそも本当にこごみだったのだろうか
息子は気に入ったようで一番多く食べた
明けて日曜日
夫婦で教会へ行った
息子は腹痛で行かなかった
ひと月ぶりで説教をした
こごみを取りながら神様の愛を感じたことを話すと
深い話なのに みんな笑っていた
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