こごみの天ぷら/ただのみきや
赤い 熊出没注意の看板の右端上に
白い小さな張り紙で「最近」と補足されている
死ぬことより死に方が問題だ
熊に食われるのは天罰のようでどうもいけない
残された妻と子が葬儀の席で困ってしまうだろう
それに牧師だってやりにくい
軽川(がるがわ)を挟んで向こうの日陰ばかり
密やかにとぐろを巻いている 毛深いこごみの姿は
詩人の原始から生え出でる形成途中の舌のように
規則性と不規則性の間ぎりぎりのポーズで
今にも喰いついきそうな緑色の焔だった
こちら側に見当たらないのは
駅の近くで路上商売をしている山菜婆の仕業だろう
だみ声の山菜婆と近所の地主が激しくやり合う光景
思い
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