落穂拾い/天野茂典
古池がある
池は苔が生えている
月が出ている
満月だ
池に満月が映っている
静かだ
生き物の気配がしない
そんな時
ちいさな岩の上から
蛙が飛び込んだ
ぽちょんと音たてて
ダイブしたのだ
生き物の跳躍するあかるい音だった
蛙は考えていた
あの満月に帰ることを
むかし月に水があったころ
蛙はおもうように
振舞うことができたのだ
地球に来てから羽振りが悪かった
蛙は月がふるさとだったのだ
それで満月を見るたびに
いたたままれなくなるのだった
蛙はいまふるさとにかえろうと
古池に映った満月目指して飛び込んだのだった
池に映った満月をすくおうとして溺死した
まるであの李白のようではないか
古池や蛙飛び込む水の音
芭蕉翁にはかなわない
傑作である
2004・12・07
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