湖/永乃ゆち
 

鉄格子の隙間から見える月は

湖の水面のように揺れていた

20歳の時私は60になる父親をナイフで刺した

理由は汚かったから

ただそれだけだ


冷たい床に寝転んでいると

湖を泳いでいる錯覚に陥る

一度も泳いだ事などないのに


けれどそれはとても心地の良いものだった

泳がせて欲しい

ただひたすらに


あの日見た風景が最後の美しい想い出だとして

私は何を後悔するだろう


冷たい壁、冷たい床、鉄格子の嵌った窓

私はいつか沈んで息絶える

湖の冷たさも知らないままに
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