吉本隆明『芸術言語論』概説/石川敬大
 
スミスの『国富論』からカール・マルクスの『資本論』までの、いわゆる古典経済学を検証することだったという事実は、吉本が目指した方向性、つまり詩批評や文芸批評に留まらず、家族や国家といった社会学、民俗学や哲学、宗教学に社会現象であるカルチャーやサブカルチャー、心的現象や人生論まで幅広く考察することになる、その後の思索遍歴とテーマの展開を示唆する重要な出来事であった。言い換えるならば、敗戦前までの価値観が転覆してしまった「精神と生活のどん底」にあった青年・吉本が、世界のどこに、どんな学問の分野に、世界を把握する価値あるものが存在するのか頭を巡らせたとき、社会学・哲学・心理学、政治学ですらなくて経済学の原
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