風だった/たもつ
 



〔3月の風〕
風上に向い口を開ける
口の中を短い鼓動で回流する風は
粘膜を乾かすことをやめようとしない

〔幼少の頃、〕
「この子は他の子より唾液が多いみたいで」
母は決まってそう付け加えた
かつぜつが悪い僕は
いつも黙ってそれを聞くのだ


〔唇を閉じる〕
閉じ込められた風は
永遠に口の中に吹いている
そう考えた
僕は


〔動くことを止めてしまった風〕
が、ただの空気の塊として
口の中に滞留する
唇を開け
ゆっくりと空気を吐き出すと

〔風〕

それは初めて僕が作り出した



だった




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