裏 窓/
塔野夏子
そしてまた梨の花が咲いた
記憶の裏窓に
梨の花が咲いたのだ
少年の横貌を
咽喉の線を
正しく記述する春の香気
咲いたよ 微笑む
咲いたよ はにかむ
その指がそっとなぞった
裏窓は古い木の枠
色あせた灰緑色の
ずっと忘れていたけれど
また梨の花は咲いたのだ
誰かが少年だったという記憶に
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