嵐を呼ぶ女/まーつん
 
例えば もし
厚く垂れこめた 雲の谷間から
神が手を伸ばして 僕を拾い上げてくれたとしたら

砂埃の舞う 峠道に転がる
何の変哲もない 小石の一つを拾うように

例えば もし
厚く塗りこめられた 壁の向こうから
愛が声を上げて 僕に呼びかけてきてくれたとしたら

冷たい水面(みなも)を突き抜けて
誰かの手が 冬の川床に横たわる
錆びつきかけた 一振りの短剣(ダガー)を拾い上げるように

見捨てられた男の背中に 青空が重くのしかかる
雲一つ見当たらないのに 監獄のように息苦しい
だが 不意に響き渡る 一対の足音
気まぐれな運命は にわか雨のように

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