もうひとつの夫婦の肖像画/石川敬大
《鯉がたべたい》
と、言ってあまえ
まったく隙だらけ
そのくせ自意識は役者なみの
あのサムライ
かれは
前世のぼく
なのじゃないかとフッとおもう
おんなのため
おんなとふたりで店をやるため
と、見栄はって恰好つけて
剣を習い
新撰組に入隊
あげくのはてには斬り殺されてしまう
あわれなおとこ
《ソノ》
最期におんなの名をひと声つぶやき
いっしょにとるはずだった
夕餉の
鯉料理を
おもいうかべながら静かに果ててゆく
[次のページ]
戻る 編 削 Point(11)