もうひとつの夫婦の肖像画/石川敬大
 



   《鯉がたべたい》
   と、言ってあまえ
   まったく隙だらけ
   そのくせ自意識は役者なみの
   あのサムライ
   かれは
   前世のぼく
   なのじゃないかとフッとおもう

   おんなのため
   おんなとふたりで店をやるため
   と、見栄はって恰好つけて
   剣を習い
   新撰組に入隊
   あげくのはてには斬り殺されてしまう
   あわれなおとこ

   《ソノ》
   最期におんなの名をひと声つぶやき
   いっしょにとるはずだった
   夕餉の
   鯉料理を
   おもいうかべながら静かに果ててゆく

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