音に棲む/石川敬大
 
リの刃で腹といわず顔といわず斬りつけてくる風にふかれていた
   五能線のどこかの駅舎から歩いてきたのだった


   女の傍らに
   息子は影すらみあたらなかった


   感情のない空に音のない月
   パウダー状の黄色い砂がふっていた
   きこえない泣き声が
   ふれられない天の高さからふってくるのだった


    ――そのときだ
   蝶の羽音がきこえてきたのは


   だれかがふりかえる
   砂はものの背後にあって
   声はどんな熱も発することはなかった





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