音に棲む/
石川敬大
リの刃で腹といわず顔といわず斬りつけてくる風にふかれていた
五能線のどこかの駅舎から歩いてきたのだった
女の傍らに
息子は影すらみあたらなかった
感情のない空に音のない月
パウダー状の黄色い砂がふっていた
きこえない泣き声が
ふれられない天の高さからふってくるのだった
――そのときだ
蝶の羽音がきこえてきたのは
だれかがふりかえる
砂はものの背後にあって
声はどんな熱も発することはなかった
戻る
編
削
Point
(14)