signifiant/紅月
 

空を見あげれば
そこにある海は
とても不気味だったことを
おぼえている


溢れてくる指、
は なぜ
これほどまでに
傾いているのか
その傾斜を
熟れた赤林檎が
転がってゆく
鼻腔を突く
甘さ
 「顔をしかめて。
なぜ
 「比喩を置いてきた。
なにも追ってはこない



ゆうれい、
あなたもゆうれい?
、あなたも?



風になびいている
白煙、
焚き火のなかへ
古書が投げこまれては
にがい音で爆ぜ
溶けてゆく
(あらゆる比喩は
赤子なんだよ)

耳元で声がして
千切れたはずの
シナプスの
ひとつひとつが点されてゆく
(なにと
刺し違えればよいのか)
このひろく
青と緑と肌色が
まだらとなった
地雷原の果てのほうに
ふらふらと立つ
白いゆうれいたちの影が
どこまでもながく
風になびいている

 
 
 
戻る   Point(5)