おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
スケッチを突然のぞきこんできたあなたを見るなり、この人はわたしと同じだと感じることができたのだ。
「どこにでもあるし、だれにでもあるんだよ」
そんなことはわかっている!
とにかくあなたはただ視線をなんらの意味もなくまたなにか特別ものを見ているというのでもなく扱っていた、注視するくせにまったくディテールを追っていないのがみえみえ、ファナティックではあるが描線などまったく見ていなかった、けれどそれは対象へ自己を投影し所有する類ではなかった。そしてそれでよかったのだ。わたしたちは特別なふたりになりようがなくて、だからこそありきたりに特別であろうとふるまえばよかった。ケンカをしても愛し合っても、
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