ノート(なのほし)/木立 悟
夕べの膝が
階段を降り
蚊の群れのような「か」の文字を
楔の如く浮かばせている
どこまでも魚は魚なのか
死ぬまで泳がねばならないか
水と水以外との語らいを
宇宙より永く聴きつづけて
外の光の 光のすべてが
内へ内へと入り込み
真夜中も真昼も無いように
氷のように街を刻む
わたしはよだれのあぶくを視る
涙にあふれた無数の目
銀河と銀河の衝突を視る
伝える間も無く絶える星を視る
わたしは今はわたしだが
別にわたしでなくてもよかった
わたしをわたしと決めるのは
常にわたし以外のわたし
他の誰でもあるわたしなのだ
ぽあんぽあんと音が呼ぶ
ぽあんぽあんと板が呼ぶ
暗黒の壁にしきられて
宇宙も時も
つづくことをやめないのだ
つづくことを
やめられないのだ
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