静という泉/月乃助
 
山を二つ越えた 谷あいに
老婦が ひとり住んでいる

杉森の影をうすくうつす そこに
ばあさまの名前のついた泉がある





涌きでる清水は 億年の/恵み
甘く やさしい





茶を 蕎麦を 酒をつくるため
水をもらいに 人は森をこえてやってくる
紅までとどかぬ 恥じらいの八潮の花が
水などと 不思議そうに眺めている


そばに ぽつねんとする
ひとかかえもある木蓮は 泉の守人
春におかされ 狂ったような陽気の
白い灯火が 泉面にゆらぎ、


時折、墨絵からぬけでた怠惰な鯉が
花の影をすう






私はもう我慢でき
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