30wの春/瑠王
春
虎はその幕の奥深くに身を委ね静かに眠りを始める
兎がその上に立ち
電球のフィラメントでバイオリンを奏でると
そこ一帯は輝いて
学生達の駆る自転車の前輪と後輪が
まるで男女のように踊りだす
音楽は電球のガラスの外までこうこうと照らす
でも兎は知っているのだ
そこがとても小さな庭であること
そしてそのずっとずっと外側で
世界は獣の大きな手によって包まれていることを
兎の涙でショートした春が
やがて夜を迎え静寂を取り戻す頃
虎は安らかな夢を見ている
戻る 編 削 Point(5)