その笑顔が忘れられなくて/ただのみきや
 

 笑顔で他人の家が燃えるのを見物に行くなんて
  自分の家が火事になったらどんな気持ちになるというのか

そう思った後
急に不安になって
近くの家の窓ガラスに映る自分の顔を確かめる
そこにいつものしかめっ面を見つけては
 少し ほっとする
だからと言って彼らより善良なわけでも
彼らが特別悪人なわけでもないのだが

ただ あの屈託のない素の笑顔が
無数の臨終の顔のように記憶に留まり続け
吐き出したくてもままならない
痰のようにイライラさせるのだ


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