その笑顔が忘れられなくて/ただのみきや
インターホンの向こう
奥さんの返答が聞き取れなくなる
営業妨害の嫌なサイレンだ
気がつけば風にのって煙の臭いが満ちてくる
ますますサイレンが近づいて来た
火事だ!
道路向かいのおばあちゃんが
ほうきを持ったまま不安そうに立っている
近所の子供たちが走ってくる
目をキラキラさせて
まるで鬼ごっこかかけっこの練習だ
子犬のようにじゃれ合いながら
「あっちだよ! 」火事を見ようと走って行く
すると今度はあちらこちらの玄関から
奥さんたちの登場だ
顔を見合わせ 軽く会釈してはほとんど皆が
笑顔 笑顔 笑顔
子どもたちを追って足早に現場を目指す
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