乖離したものが いま 月のように弧を描き/ただのみきや
時折 背負った荷物をすべて下ろしたくなる
そしてまぼろしの中の風のように
異邦人たちの衣を揺らしながら
何も持たずに消滅したい
時折 鳥となって旅路の終わりへと飛び去りたくなる
そして草原の向こうから静寂に放たれた
矢のようなひと鳴きとともに
ぽとりと花を落としたい
しかし また時には
幼子のように自分のまわりにある
すべての実感あるものに寄り添って
その体温やにおいを感じながら
あらゆる不安から目をそらして
今をしゃぶっていたくなる
そんな行きつ戻りつが
目まぐるしくなるほどに
鏡の男の笑みは油絵じみてきて
帽子のように暗い部屋のすみへ投げ捨てたくもなるのだ
一つの世界と刺し違えるために
飲み込み続けてきたことばを
今 鈍器のように振りかざす
乖離したものが いま 月のように弧を描き
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