乖離したものが いま 月のように弧を描き/ただのみきや
 
時折 背負った荷物をすべて下ろしたくなる
 そしてまぼろしの中の風のように
 異邦人たちの衣を揺らしながら
  何も持たずに消滅したい

時折 鳥となって旅路の終わりへと飛び去りたくなる
 そして草原の向こうから静寂に放たれた
  矢のようなひと鳴きとともに
  ぽとりと花を落としたい

   しかし また時には
 幼子のように自分のまわりにある
 すべての実感あるものに寄り添って
 その体温やにおいを感じながら
 あらゆる不安から目をそらして
  今をしゃぶっていたくなる

   そんな行きつ戻りつが
   目まぐるしくなるほどに
  鏡の男の笑みは油絵じみてきて
帽子のように暗い部屋のすみへ投げ捨てたくもなるのだ

  一つの世界と刺し違えるために
  飲み込み続けてきたことばを
  今 鈍器のように振りかざす


乖離したものが いま 月のように弧を描き

戻る   Point(26)