陽春のひと/恋月 ぴの
おさんぽカーには幼い顔が幾つも並び
桜の木の下をゆっくりと進む
時おり吹き抜ける風の冷たさに
ぐずる子がいて
あやす保母さんの肩には桜の花びら舞う
※
手を繋ぎあう子供たち
ちいさな手のひらで伝え合うのは
ぼく、ここにいるよって証し
君と一緒だよって証し
それなのに泣いている子には無関心なのも可笑しくて
※
これから児童公園でお花見なのかな
わたしの初恋はお隣に住んでた男の子にだったらしいけど
今となってはさっぱり覚えていないし
おひとり様のお花見は
遠くから思い思いに寛ぐ家族の笑顔を眺めるだけ
※
子どもたちは神田川を渡る橋に差し掛かり
保母さんの指差す先には
桜色に染まった日差しを横切る燕の羽ばたき
そして、わたしは前カゴに入れたままの届け物に気付き
悪戯な風に舞うフレアスカートの裾を押さえた
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