音の轍/木立 悟
空のくちびるのまわりを
たくさんの魚が泳いでいる
曇の奥の曇に染まり
行方は次々とひらいてゆく
涸れ井戸を囲む湖に
金属の破片が降りてきて
細い道のあつまる道に
かがやくひとつの影をつくる
橋の下の橋の下には
鉄の家が連なっていて
夕方へ夕方へと緑に埋もれ
見えない者の歩みを鳴らす
使い捨てられた人々が
最後に流れ着くところには
燃え尽きることのない羽があり
人々の片目だけを照らしている
誰にも譲ることのできなかった
かがやきだけを照らしている
黒が黒をたどるように
闇は自身を折り曲げる
なぞられてはじめて生まれたからだで
音の姿を描きつづけている
音の轍を描きつづけている
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