マトリョーシカ/ただのみきや
 
くる
だが君は屈することなく叫び続ける
 「世界はこの中にある! 」

好奇心にはかなわない
今度は何が出てくるやら それ パカッ と

幼い君は家族と食卓を囲んでいる 両親 兄弟 姉妹 祖父母
電球のほの暗い光の下で箸や皿が音もなく蠢いていた
会話は止めどなく続くのだが 家族の顔は一つもない
顔だけが街角の悪戯されたポスターのように剥がされていた
君はそこに居ながら留守のようで ぽつんと膝を折ったきり
視線は落下したまま凝固していた
やがて家族の会話は幾重にも繰り返され
群衆の声のようになりぐるぐる回り始めた

なんだか気分が悪くなってきた
まだ中に何かあるのか
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