老いぼれロバの見る夢は暗い海の底に溶け/ゆべし
暗い海に揺れる小舟を
灯台の上で眺めている
開いたままの本のページは無遠慮な潮風にめくられて
『暴れ馬を乗りこなすことよりもよほど、老いぼれロバのたてがみなびかせ、颯爽と駆け足させることの方が難しい。』
くるくると回る灯台の灯りは小舟をとらえては通り過ぎ
馬を駆る青年の影は海上に現れては消える
べとつく潮風
額の汗
海鳴りは病人の吐息に似ている
泥水が流れる速度で夜はぎこちなく深まっていく
隣で闇が膨れて、徐々に青年をかたどっていく
『暴れ馬を御することはできても』
暗い海を湛えた瞳に
灯台の灯りが射しこんで
『老いぼれロバのたてがみなびかせ、颯爽と駆け足させることは不可能だ。』
その先で小舟が揺れている
私は舳先で跪き
水面に手をのべやがて身を投げる
底なしの穴に引き込まれるように
沈む私を私は灯台の上から眺めている
暗い瞳に映されながら
青年の手が優しく私の手をつかみ刳り貫かれた窓へと導く
そっと背を押した
小舟はもうどこにも見当たらない
海の底へ沈んで溶けて
老いたロバの夢になる
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