誰か止めればよかったのに/ただのみきや
誰か止めればよかったのに
投石器に自分の箱庭みたいな心を乗っけて
あいつは遠くへに飛んで行ってしまった
ほらそこのベンチ 降り積もった火山灰
虚ろなカタパルトがじっとしている
誰か止めればよかったのに
ベーキングパウダーを入れすぎたパンケーキみたいな女が
口ずさむ借金地獄の唄に染められて
あいつは自分の寿命を少しずつ丸めて奇妙な小鳥をこさえては
地下鉄のホームで売りさばいていた
誰か止めればよかったのに
幼稚な若旦那は道化たちを引き連れて
何に船を浮かべたつもりかあっちにこっちにぶっ放し
粋も風情も壊しまくっては悦に入り
「おれがやらねば誰がやる」ってほざいていた
誰か止めればよかったのに
あいつがハネムーン色の開いた墓だってことを知らないやつはいない
良い水で育ったロバみたいな娘くらいしか騙されはしないのに
だが足元に転がる古い吸殻みたいにおれたちは無関心で
誰か止めればよかったのに と思うだけだ
苦い胆汁を呑み下すことにも
すっかり慣れてしまっている
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