上弦の月/涼深
 

あたしにとってのあんたは
『たくさん』の中のひとり

  請われるまま名を呼べば
  見返りは満足げな笑みと軽い口付け

けれど、唯一のお方



この身を嘆いちゃいない

眼を閉じれば
今夜の相手もあんただって思えるんだもの

繋いだ手が別の男のものだって
甘い痛みが貫くのさ


嫉むなんてお門違いだね

あたしの知らないところで
あんたが息をしていること
あんたに寄り添う存在

最初から判りきってたことだもの


――あんたの中にいるのは
  あたしじゃないんだからさ――



甘い傷が増える
密やかな痛みに喘ぐ喉
艶やかな傷口は何時までも開いたまま


胸焦がす熱など要らない
温かい優しさも欲しくない
過分な願いなど元から抱いていない


だから、
せめてこの傷だけは
この甘い痛みだけは
何時までもあたしに遺しておくれよ



震える夜空
誰かの肩越しに嗤う
あたしによく似た上弦の月
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