岩石のような人/beebee
た岩石ではなくて、
桜貝のように見えた。
それは硬い貝殻を纏っているが、
叩くと脆そうだった。
表面には皺のような模様もあって、
長年水に浸かっていた垢もあって、
でも薄紅く暗闇に光っている。
そんな気がした。
もしかすると、
どこか人生の分岐点を過ぎると、
今度は硬い殻が剥がれて行って、
一枚一枚剥がれて行って、
最期には
小さな自我を護る薄い殻だけを残して、
全て剥がれ落ちていって、
薄紅い桜貝になるのかもしれない。
頑固で頑なな父は、
最後には認知症になって、
食事を口に運ぶ他人(ヒト)の手に噛み付く
駄々っ子のようになっていたが、
それでも薄く自分を守る
貝殻を残していたのかもしれない。
貝殻と岩石、
どちらも大事なものを内に抱えて
長い時間を生きて来たんだ。
そっと自分の頭を掻いてみる。
やっぱり頑なな硬い殻があって、
何やら痛痒も感じない。
そろそろ自分も一枚一枚
汚れを落として確かめながら
殻を剥がしてみようかと思う。
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