独房の春/草野春心
 


  空の蒼い日
  乾いた独房に
  ひとふさの春が投げこまれる
  赤錆びた格子窓の向うから
  透明な一枚の手によって



  そこには誰も居ないので
  やがて、壁の隙間から
  或いは固いベッドの中から
  小さな緑が芽吹き
  女のうなじによく似た
  凛とした香を添えて
  桃色の花がそっと開くとき



  独房は
  春だけのものになる
  そこには
  誰も居ないので




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