波打つ草原/杉菜 晃
 
いた


◇雪解け水

とうとうと流れ下る
雪解け水ほど
森羅万象を
抱え込んだものはない
丸太や
樹の枝は
言うに及ばず
鹿の頭部
角 
狐の屍骸
片方のスキー
赤いヤッケ
登山靴
男女の帽子
赤いベルト
日記帳の入った革鞄……
それら忘却を
掘り起こし
眼前にさらし
未来へと押し流していく
圧倒するリアリティー
人はこれを
超えて
生きるしかない


◇白雲

エノコロ草を手にして
ついで口にして
なお満足いかず
いくつも繋いで首にかける
頭上に浮かぶ白雲の
ひとところが裂けて
きらっと光る
そこから遠い日が放射する
無垢な
あの娘が美しく笑う


戻る   Point(11)