春の悲哀/
ただのみきや
両の窓から見えるものはみな不確かで
ぼんやりと光に融け出しているようだ
心は焦げ付いた鍋のように
そのまま冷たく放置されていた
杖をついて
時が行き来する
昭和の家電のよう
かくばって
古びていて
頑丈だけど
もう いつ止まってもおかしくはない
春の悲哀が 秋のそれに勝ろうとは
ああ すべて新しいいのちの芽吹きが
新しい歩み出しが
わたしを置き去りにして遠ざかって行く
昔 知る由もなかった
見知らぬ男を残して
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