奈良にいる頃/天野茂典
 

   おにぎりをたべながらぼくたちはしゃべった
   その中で忘れられない一言がある
   『天野くんって 私になんにもしてくれないのね』
   どきっとした ぼくは彼女になんにもしてないし
   それで彼女も満足していると思ったからだ
   グさっと刺さった
   うろたえた
   ぼくには女性を満足させる何者も持たない
   ぼくは彼女を抱こうともおもっていなかったのだから
   画廊にも 映画館にも
   ライブ・ハウスにも レストランにも誘ったことがないのだから
   彼女の言い方は優しかったが 鋭い棘があった
   肉体的にはぼくは女性にどうしたらいいのか
   本当に分からなかったのである
   なにをすればよかったのだろうか
   推理小説を読むようにぼくは今でもこの一言の重さをかみしめてい
    る


   どうすればよかったんだ!

  


               2004・12・02
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