甲板の花/佐伯黒子
預金を、すぐに下ろせるところに移したあとで、わたしはきみに留守番電話を遺した。さようなら、もうきみのせいで死のうとはしないよ、だけ言って、それで今、わたしは握りしめている携帯電話よりずっと大切なものを足元にみつけてしまったので、ふるえの止まらないそれをうしろの海に投げたのだった。
◇これから
つまり、わたしのきみは、つまり、これのことだったのだろう。海に堕ちたきみは、つぎは花として散るか枯れるかするまで、わたしに寄り添うのだろう、つぎのきみがあらわれるまで。そうやって、いきているもの、いないもの、すべてをつかって、なんとかわたしをさいごまでみずから消さないように、運ぼうというのだろう。まったく傲慢だね。
ありがとうね。
(甲板でその花は孤独と不安におびえながら
嵐をこえて咲きつづける
つぎはいったいなんだい
ううん
おしえてくれなくってもいいや)
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