屠殺場/草野春心
 
床にランタンを置き
  その不確かな灯りの中で彼は
  本の頁を軽やかに捲る
  穏やかに、むしろ慈しむように
  屠殺小屋の外ではふたたび
  弱く、だが厳しく冷たい雨の群れが
  木々の葉を叩く柔らかな音がしなり始める
  そしてその音のうちの一つに
  真新しい赤いものが混じり
  暗闇を浸してゆくのを
  何処か遠い場所から
  女の、一対の虚ろな瞳が見つめている




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