湖/根岸 薫
と思うのです」(落ち着かない様子、鞄から小さな茶濾しを取り出して膝に置く)
乙「大丈夫ですよ。…では次に、一昨日の午後は何をしていましたか?」
甲「一昨日は…出かけていました。母と食事に行ったんです。とても遠い所で、何度も道に迷いながらどうにか着きました。でもそこは写真と違って、ひどく汚い店だったんです。それで私たちはがっかりしてしまったのですが、他に仕様もなく、そこで食事をして帰ったんです。帰り道もずいぶん迷いました。橋を何度も渡って…ああそうそう、最後の橋で白い大きな鳥を見たのを覚えています。母は『ありゃ鶴だら』なんて言っていましたが、私は違うと思います。鶴ではないですよ。
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