パトキのパドルデビル/6
 
的には瀬田訳に愛着を感じる。

 さて、瀬田訳と瀬田・田中訳とはどう違うのであろうか。具体的な点をひとつ挙げるとすれば、語義・発音の改変がある。田中は、瀬田訳での明らかな誤り・発音違いを訂正しているのである。

 例えば、粥村→ブリー村、うれし野→あやめ野、イセンガルド→アイゼンガルド、サルーマン→サルマン、グリシュナク→グリシュナッハ、といった具合である。

 しかし、語義・発音的には田中訳が正しいのだろうが、自分としては瀬田の誤った訳の方に愛着を感じる。
 「ブリー村」という名前は平凡なカタカナ語の名前に堕してしまっており、「粥村」のような意外性のある名前ではない。「イセンガルド」の方が「アイゼンガルド」よりスマートな感じがする(アイゼンガルドという言葉は愛染明王を連想させる)。「サルマン」では「猿男」のようで間が抜けている。

 瀬田訳は間違っているのだろうが、訳は合っていればよいというものでもない気がする。間違っている瀬田訳には、各用語の訳し方に創意工夫が存在する、用語全体の調和が取れている、といった良さがあるように思う。
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