なのりそ/そらの珊瑚
 
うららかな日でございました

春まだ浅い
やわらかな陽光が
鏡のような海の面を
無数にきらめいていく
穏やかな日和に
お嬢様は嫁がれていかれました
でも
その胸中はいかばかりか
真白な花嫁衣装からは
透けて見えるのは
全てを断ち切って
旅立たれる哀しみに似た決意のような
ものだったのではないかと思います

お嬢様のことは
何でも知っているつもりです
この家の門前に捨てられていた
赤子だった私を
何かの縁だとおっしゃって
育ててくれたのは
お嬢様の父上でした
幸、と名付けて下さったのも
だんなさまだと聞いております
幸薄い人生の始まりに
せめて名だ
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