無い/渡邉建志
「きゅーりさん、
きょうも伸びてるねえ。
…なかなかに。」
ごぼーさんは言いました。
「そういうおぬしも、
ぬくぬくと伸びておるでないか。
…なかなかに。」
きゅーりさんは言いました。
その横を、つちけむり上げて、
無いが自転車に乗って
かけぬけていきました。
無いは遠くを見上げるとそこに
山や空や雲があって、無いのとなりに
有るがいることに気がつかないようすでした。
有るは無いをとても気づかっているので、
無いのとなりでできるだけ静かに
自転車を走らせます。
無いを優しく見守るふたつの目。
「いま走っていったのは、
ふたりだったねえ」
きゅーりさんは言いました。
ごぼーさんは、
何も言わないで
涙を流しておりました。
ごぼーさん。
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